「……それでは、みなさん、理事長からのお話です」




校長がそういうと、壇上の脇の椅子に座っていた理事長が腰を上げた。


ゆっくりとマイクの前に立つと、理事長は「えー……」と話し出す。


あの、穏やかな話し方で。



「みなさんにとって、どんな1年でしたか?
今日で1年度が終わると言う節目の時期です。楽しかった事、悲しかった事、ひとりひとり、いろんな性格のみなさんがいるように、感じ方もそれぞれだと思います。

きっと、今となっては毎日ささいな事で。
なんでもなくて。

でも、今日のこの日のみなさんを作った、大事な日々だったと、気付くはずです。
今はまだわからないかもしれません。


でも、将来、自分が大人になって、その時に16歳、17歳の自分を思い返した時に……
きっと、この時があったから今があるんだと。

必要のない日は1日もなかったんだと、きっと気が付くと思います。


私は……みなさんが、そうであって欲しいと、そう思います」





……。



今があるのは、過去があるから。

はは……、なんかくっさいセリフー……。







でも……。

俺は……。




今日のこの日を大人になってから思い出して。


あの時の判断は間違ってなかったって……。
胸張って言えるのか?





………………。
…………。








「……なッ、なんですか!列に戻りなさい!



咲坂ナオッ!」








校長が俺の名前を呼んで制止したけど。
そんなの関係なくて。


気が付いた時には、俺は……。



壇上の前で、理事長を見つめていた。