俺の退学に気付いてるのは、今のとこ壱也だけだ。



よかったかも……
あの時、壱也にバレて。

あの飄々とした態度腹立つけど。
でも、それで救われたことは何度もあったんだ。




もし、ひとりでこの事を抱えていたなら、俺はこんなに穏やかな気持ちじゃなかったかもしれない。










…………あ。




前を歩く見覚えのある後ろ姿。

いろんな奴に声をかけられて、一つずつに笑顔で返している。




はちみつ色の髪が、まだ寒い春の風に遊ばれて。

まるで誘うように、甘い香りを俺に運んだ。





その後ろ姿をぼんやりと眺めていると、浮かんで来るのはあの泣き顔。






ほんと、お人好しだよなぁ……。
るみの時といい、俺の時といい。


他人の事を、自分の事みたいに考える日向が、俺にはとても眩しい存在に見えた。







最近、日向の泣き顔しか見てないな……。


笑った顔がかわいいのに。




……俺のせい、なんだよな……。






顔を上げていられなくて、思わず足元に視線を落とした俺の背中を誰かがポンッとたたいた。




「おーはよ!」