悶々とした気持ちを抱えたまま、時間は流れ。

俺は寒空の下、引きずられるように歩いて、いや、歩かされていた。




「もーう、なんでそんなテンション低いの? 今日が何の日か忘れたの?」

「……」

「ちょっと!話聞いてる? ナオっ」

「……聞いてるよ。つか、服引っ張んな!」



ジロリと目を細めて、少しだけ腕を自分に引き寄せた。



「てゆかさー、そんな恰好してて、みんなに怪しまれない?」



と、そう言いながら俺の腕と一緒になって引き寄せられたのは、るみだ。


どこが?って感じでさらに目を細めた俺を見て、絡んでいた腕を離すと大きな鞄の中に手を突っ込んだるみ。



「あのねぇ、仮にもみんなには女の子で通してんでしょ? だったらせっかくのクリスマスパーティなのに、オシャレしないでどうすんのよ。……えーっと、たしか……あった!ほら、これっ」



って、目の前に差し出された物に視線を落とす。



「なに、これ」


「見てのとーり。 グロスだよ。ほら、女の子はグロス塗るだけで男の視線を集められるって言うじゃない。 だから、これ使って」



グロスって……口紅じゃねーか!
しかも……



「俺、別に男の視線なんて集めたくないし。キモイだけだっつの。 だからいらない」



ツーンってそっぽを向いた俺の頬はいきなり掴まれて、るみに無理矢理元に戻された。



「なにすっ……」

「いいからっ! ほら、リップサービスは大事なんだから」

「……」




真っ直ぐに見上げられて、喉まで出かかっていた言葉は喉の奥へ引っ込んでしまった。




今日はクリスマス。

俺には関係ないと思っていた。


だけど、こうして無理矢理だけどるみに連れられてパーティに向かっている。



特別な日だから?

いつもより化粧をして着飾ったるみは、キレイだと思ってしまった。