そのイケメン達が店を出た後、女子達はキャーキャー騒ぎながら話していたことがたまたま紗羅の耳に入った。
「長瀬浩智だって、名前までかっこいい///」
「しかも外科医でしょ!どこまでもステキ!」
などと話していた。
そんな話で盛り上がっているせいで、仕事をしない女子たちの代わりに紗羅はテーブルを拭いた。
その時忘れ物があることに気付いた。
それは財布で、大事なものであるとこに間違いはないだろう。
不本意だが中身を見るとそこには名刺が入っていた。
「長瀬...浩智?」
そういえば、さっき女子達が話していた人のだ。
きっとなければ困るだろう。
そう思い、紗羅は学校の先生達が待機している場所へ行き、落し物の財布を渡して放送してもらうことにした。
待っているのも時間の無駄なので紗羅はクラスへ帰ろうとしたが先生たちに本人かどうか確認しろと言われしぶしぶ残った。
数分して、本人がやってきた。
「あなたのですか?」
と先生が問いかけ
「はい」
と素っ気なく返す。
本人であることに間違えはないと私も言って財布を返した。
そしてクラスに戻ろうとしたとき
「お前がもってきたのか?」
と不意に声をかけられた。
正直男性と話すことなどない紗羅にとってかなり緊張したし、動揺した。
「はい...」
なんとなく気恥ずかしくなり、顔を俯けると彼は続けて
「助かった、ありがとな。」
と言ってその場を離れた。
声を聞いたのは初めてだった。
どことなくくすぐったい気持ちになった。
心地よいその低音が耳に残って離れない。
しかし、それはアイドルとか有名人とかに抱く感情と似ているものでそれ以上の特別な感情などなかった。
「みんな、ああいう人が好きなのかな?」
独り言のように小さくつぶやき、はっと我に返ってクラスに戻った。

一方の浩智はと言うと。
「お、ヒロお帰り!」
「よかったな、財布見つかって。」
「ああ」
と短く切り返す。
「で?女子高生だったの?届けてきた 。」
「ああ」
女子高生というか、そんな風に見えないガキだと後で付け足す。
「なんかあの店の女の子たち、みんなヒロばっかり見てたよなー。」
と1人の男が言う。
「ガキに興味なんてねぇよ。」
「うわ、ヒロくん冷たい!」
などと笑いながら言う。
しかし、浩智の中ではあの財布を届けてきた女の子は少し違う雰囲気を放っていたと思った。
普段なら自分のことをよく知りもしないくせに勝手に近づいてきて女を武器にあの手この手を使ってくる女とは違う、どこか純粋で、そして自分に微塵も興味のないような態度。
浩智の中ではそれがあまりにも新鮮で少し心地よかった。
そして、不意に笑ってしまった。
「え?なになに?その女子高生可愛かったとか?」
食いついてくる友達に
「お前のタイプじゃねぇよ。俺もな。」
と答えた。