愛合傘Ⅰ~終わることで始まる物語~【完】


私が忘れていたのは、夕日君がくれた形のない宝物。

出会った、音楽室。

あの時もうピアノは弾かないって…。

自然と涙が溢れた。

ずっと聴きたかった。

誰よりもずっと愛しかった。


「千尋、夕日が千尋の好きな曲弾いてくれるって。おいで。」

田中君に手をひかれ、夕日君の隣へ。

思い出すあの頃。

今、またその時が―――――。

ゆっくりと手をのせ、音がなる。

とても優しくて心地いいメロディーが耳に、体に、心に響いた。