「お疲れ様です。」

ロッカールームで着替え、白い手袋を外しました。

「お疲れ。」

飛び交う、お疲れさん。を潜りぬけ、そのホテルを後に。

『終わったよ。いちは、今、何してるの?』

平たい電話、いえ、小さくなったパソコンに、文字を打ちました。

ぴっ。と改札を抜け、階段でも良かったけれど、私はエスカレーターに甘えます。

「…番線、ご注意ください。」

プルル…。と走り出す、満席の電車とシンクロした、携帯電話。

「お疲」
「今、電車だから、メールする。」

彼からの、電話でした。

『ご飯は?食べたの?』

結局、私から送る言葉。

左手で吊革に捕まって、右手で携帯を握りしめて。

『着いたら、電話して。』

もう、会話にすらなってないことに、今日の疲れと一緒に、ため息が漏れる。

足、痛いな。

ヒールも履き慣れたとは言え、どこか窮屈感は否定できません。

20分くらいかかり、やっと着いた見慣れた駅。

ドアの前で、微動だにしない、少し太めの女性を通り抜け、

「もしもし。」

彼に、電話しました。

「まゆ、どこ?」

耳の向こう側から聞こえる電車が走り出す音に、私の足並みも、少し軽くなった。

「もうすぐ、改札だから。」
「え?どこ?」

いや、だから、もうすぐだから!!