桟橋の下を通り掛かったのはたまたまだった。

目当ての参考書が売っている大型の本屋が、桟橋の向こうだったからだ。

こんな時に夜に出歩くものじゃないと分かってはいたけれど、どうしても明日までに必要だった。


大量惨殺事件。

犯人は未だ逃走中。


桟橋を通り掛かった時、いやがおうにもそのニュースを思い出した。


桟橋の下にはやはり、捜査網が敷かれている。

夜間の今は人がいないが、警察が捜査した後はくっきりと残っていた。


「……え?」


一瞬目を疑った。

桟橋の下、光と影の間に、人影が見えた気がしたからだ。


「……やだ。まさかね」


野良猫か何かだろうと思って首を横に振る。


早く帰ろう。


急ぎ足で桟橋を後に


「下平?」






よく知った声が背後から掛かった。


壊れたブリキのように振り返る。

その先には、闇夜に映える金髪の


「こんばんは」


あの貼付けた笑みを浮かべ


土伊東桐耶がそこに居た。