「ど……土伊東くん、則子を追い掛けるのはやめて」
「何故?」
「何故……って」
則子が怯えているから。
それに、土伊東桐耶には違和感がある。
言いようのない不気味さが。
あの桟橋の日感じた事。
纏うものがまるで
私達とは違うような。
「……そう怖い顔しないでよ」
土伊東桐耶の顔にはやはり、貼付けた笑みがあった。
認めてはいけないと思う。
確信してもいけないと思う。
それでも私は、口を開いた。
「土伊東くん……ここで人、殺した?」
なんて、酷い質問だろう。
普通の人がそんな事を問われたなら、憤慨するに決まっている。
だが彼はそれでも笑って
更には声にまで出していた。
「ハハッ下平……いい質問だね」
土伊東桐耶の瞳には、愉快さが灯っていた。
「もしそうなら、どうする下平?」
まるでピエロのように、整った顔を傾げてみせた。
「もしそうなら私は……あなたを蔑むわ。あんな事件起こすなんて、絶対人間じゃないもの!」
則子をかばってそう激昂する。
彼はどういう訳か、さぞかし汚いものを見るような目付きで私を見た。
「そうだな……下平、答え合わせは次に取っておこう。君が生きていたら……いや、死ぬ時に自ずと分かる事か」
妙な言い回しを彼は言う。
そして最後に彼は、私の後ろの則子を見た。
「逃げられると思うなよ。オレもこの立場は些か飽きた」
「雪乃ちゃん……」
私の耳元で聞こえた、歌うような声。
「お願い。桐耶くんにあたしを殺させないで」



