G.H.Emperor


どうしてと聞き返すと、則子は自分の震える指先を握りしめた。


「あのね……こんな事言ったら駄目だと思うんだけど、でも雪乃ちゃんだから言うね……」


則子は小さく歌うように言った。


「あたし、桐耶くんに殺されるんだ」







突拍子のない事ではある。


だが則子の震えは尋常ではなかった。


「桐耶くんの笑顔が怖いの。桐耶くん、この前のデートでも桟橋で……」



桟橋。



『こんばんは』



何故かあの光景が甦った。


あの人形染みた存在は、どうしてあの時間あの場所に一人で居たのだろう。


小テストがあるからとその日則子と別れたのなら、自宅で準備をしている筈だ。


なのにあの奇妙な時間、私はあのような場所で土伊東桐耶に会っている。


そして土伊東桐耶と出会った次の日の朝、ニュース速報で



「あれ、二人揃ってどうしたの?」



あの桟橋で、再び惨殺死体が見つかった事を知った。


「土伊東、くん……」


彼は私をにこりと一瞥し、則子の肩に手を添える。


「則子、震えてる……風邪でもひいた?」


優しい声色に反して、土伊東桐耶の口元に歪んだ笑みが作られた気がした。


「そっそんな事ないよ桐耶くん」


「そう」


「あっあたし達もう行くね!ほら雪乃ちゃん!」

「あ、うん」


逃げるように則子に引っ張られ教室に入る。

もう授業も始まるし、彼は追い掛けては来なかった。



「ペタペタペタ」







「え?」



何かが聞こえて、あたしは首だけ振り返った。


土伊東桐耶が見据えた目をあたしに

いや、あたしを引っ張る則子を見ていたのか。


「風邪でもひいた……って、傑作な文句だと思わないか?」


土伊東桐耶はそんな事を言っていた。