「ねぇ、名前聞いてもいい?」
「俺の?」
「他に誰がいるのよ」
名前分からないと呼べないし不便そうだしね。
「俺の名前は、春。若宮 春(わかみや はる)」
「春、ね。素敵な名前。わたしは淡雪だよ」
「淡雪……春先に降るすぐに溶ける雪のことだな」
「へぇ、よく知ってるね」
春って博識だなぁ。
「これぐらいなら誰でも知ってるだろ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「そうなんだ…わたし春のこと天才かと思った。
言わなかったらわたしの中で春は天才でいられたのに……残念だったね」
「なんだそれ」
ふはっ、と春が笑った。
うわ……
「春って、かっこいいんだね」
「はぁ?」
うん……よく見るとすごくかっこいい。
髪は薄い茶色でさらさらと風に揺れて、瞳も髪より少し濃い茶色。
寒いからか、肌は少し赤くなっている。
普通の顔を見たときは冷たそうって思ったけど……
雪の精が他の人に冷たそうってどうかと思うけどね。
でも笑った顔はすごく優しくて、少し幼く見えた。
「わたし、春の笑った顔好きだなぁ」
にこりと笑顔を向けると春がびっくりしたように目を見張った。
「なに?そんなに見て……わたし何か付いてる?」
「や、なんもない……」
ふい、と春はわたしから顔を背ける。
「ヘンな春ー」
その顔が少し赤く見えたけど……寒さのせいだよね。
ゆらゆらとわたしはまた漕ぎ始める。
すでに空にはちらほらと星が出ていた。
「わたし、そろそろ行かないと」
あんまり遅いと氷雪が心配しちゃう。
「じゃあね、春。わたしまたここに来ると思うから、春も暇なときは来てね。
またいっしょにお話しよ」
「あぁ。またな」
春に笑顔で手を振ってからわたしは山に向かって走り出した。


