椅子をぶら下げている鎖を掴む。
そしてわたしはゆっくりと後ろに下がって足を放した。
「うわっ……」
びゅっと風の音が耳元でした。
ゆっくり、ゆっくりと漕いでいく。
「すごーいっ、気持ちいいー!!」
地面が近くなったと思えば、次の瞬間には空が近くなる。
風がびゅうびゅうと体を通りすぎる。
楽しくて、どれだけ高く漕げるかに夢中になってしまい、わたしは新たに来た人に気づくことができなかった。
キィ、と微かにわたしの隣で鎖の擦れる音がした。
「ん?」
風かな?と思って見ると、一人の人がこの遊具に腰かけていた。
「っ!?」
あっ、あぶなっ!
無防備なところにサプライズだもん!
落ちそうになるのも仕方ないよね?
なんとか体勢を整えて落ちそうになるのは阻止した。
ど、どうしよー……
とりあえずわたしの姿は見えないだろうからいいんだけど、それはそれでホラーだよね。
だって誰もいないのに、しかもそんな風もないくせにめっちゃ揺れてるわけですよ?
この上なくホラーだ。
………逃げるが勝ち。
うん。逃げよう。
そっと腰を上げて、そろそろと歩き出す。
「もういいの?」
後ろから聞こえた声にびくぅ!!と肩が揺れた。
わ、わたしか?わたしなのか?
わたしに話しかけているのか?
恐る恐る振り向いてみると、ばちりと目が合う。
「……へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「もしかして、俺、邪魔した?」
「え、や……」
ぶんぶんと頭を振る。
「ならよかった。俺のことは気にしなくていいから、遊んでていいよ」
「あ、はい……」
ここで逃げるのもなんだか気まずくなりそうで、わたしはまた座って、ゆらゆらと揺れる。


