「もうすぐ三月になる。もう雪は降らない。そうすれば必然的に僕たちは消えて、また冬の時期に生まれ変わる」
氷雪の言葉を聞きたくないと、わたしは初めて思った。
「今はまだギリギリ僕たちは生きていられるけど、これから季節はどんどん春に移っていく。
少しでも長く生きたいと思うなら、もう山から出るな」
真剣な氷雪の瞳がわたしを見る。
分かってる……ちゃんと分かってるよ。
氷雪はわたしのためを思ってそう言ってるんだって。
でも………
「……だ」
「淡雪?」
「わたし……嫌だよ」
嫌……わたし、まだ消えたくない。
まだ、春と一緒にいたいよ。
「淡雪。これは決まっていたことだろう?」
「分かってるよ!!」
「…淡雪?」
大きな声を出したわたしを氷雪は驚いたように見ていた。
分かってる。
生まれたときから……何も知らなかったわたしだったけど、そのことだけは本能みたいに分かってた。
ちゃんと理解してたし、ちゃんと納得もしてた。
わたしは春を生きられない。
冬の時期しか生きられない。
そんなの、ちゃんと分かってたのに……
なのに、どうしてこんな気持ちになるの?
まだ、消えたくない。
まだ、生きていたい。
まだ、春といたい。
まだ、春といろいろなことを話したい。
まだ、わたしの知らない春を知りたい。
まだ、春の笑顔を見たい。
ずっと、春と一緒にいたい……
「淡雪、泣いてるのか……?」
自分でも気がつかないうちに、わたしの目からはぽろぽろと雫が落ちていた。
目から溢れて、頬をつたって、真っ白な雪の上に落ちてわずかな染みができる。
わたし、なんで泣いてるの…?
分からない……自分の気持ちのはずなのに、この気持ちが分からない。


