「淡雪」
「あ、氷雪。どうしたの?」
いつものように山をおりて春と会ってから、別れて山に帰ってきて寝ようかな、と思っていたところに氷雪が来た。
あれ、なんか怖い顔してる。
「淡雪……ちょっと、いいか?」
そう言って氷雪は歩き出す。
「氷雪?」
なんか、おかしい。
なんというか、いつもの氷雪っぽくないような。
わたしは氷雪のあとを追った。
「ここ、覚えてるか?」
「もちろん」
氷雪が来たのはわたしと氷雪が初めて会った場所。
わたしの生まれた場所。
「あのときはびっくりしたよ。まさか起きて早々に知らないのからタックル受けるとは……」
「そ、その折は申し訳ありませんでした」
そう。生まれたばかりで何も知らなかったわたしは、あろうことかそこで寝ていた氷雪に体当たりをした。
うん……今考えてもなんであんなことしたのかよく分からない。
多分、衝動?
本当に申し訳ない……
「いいよ。今ではいい思い出だし」
ははっ、と氷雪は笑うけど、その笑顔もどこか憂いを帯びているような……
悲しいような顔。
「氷雪、どうしたの?何かあったの?」
「……やっぱり淡雪には分かっちゃうな。そういうのに敏感だから」
敏感かどうかはわたしにはよく分からないけど……
ほとんどの時間をずっと氷雪と一緒に過ごしてきたんだもん。
氷雪のことなら分かるよ。
「淡雪、今年の春はもう近い。もう……時間だ」
「え……?」
じ、かん……それって
「もう、わたしたちは、消えちゃうってこと?」
自分の声が遠くに聞こえる。
言っていて自分の言葉が信じられなかった。
「あぁ」
そんな……もう、春と会えないの?


