「あ、ちょっとまってね。」
急に何かを思い出したようで、利乃ちゃんは室内に向かって走り出してしまった。ポニーテールを振り乱す後ろ姿があっという間に遠ざかる。
「浮田が面倒見てあげてるのか?」
「別に。面倒見てるって程でもないけど。」
「よく慕われてるじゃないか。」
センセイがなんだか嬉しそうだ。あまりに嬉しそうに笑うから、背中がくすぐったい。額から汗が滲む。
「なんで来たの。」
「宮野さんに誘われたんだ。よかったらどうですかって。ついでに浮田がどう過ごしているか見ておきたかったし。」
「普通だよ。」
平日はほぼ毎日あたしと夏期講習をしているのに、今日は土曜日なのに。時々覗く職員室のセンセイの机にはいつも書類が積まれている。教師の事情はわからないけれど、夏休みだからって仕事がない訳ではないらしい。
そこまで時間を費やす価値は、あたしにあるのだろうか。
「浮田はどこかを担当するのか?」
「うん。ここで水ヨーヨー売ってって言われた。」
「さっきの女の子と?」
「そう、利乃ちゃんと。」
そんな会話をしていたら、利乃ちゃんが駆け足で戻ってきた。

