先日利乃ちゃんの母親が来園したのを偶然目撃した。誘われて談話室でブロック遊びをしていた時だった。ちらりと見た母親はまだ若くて二十代に見えた。長く明るい茶色の髪は緩く巻かれており、服装も派手。ゴテゴテに飾られた爪といいばっちりの化粧といい、生活感の薄い人だと思った。

利乃ちゃんは、今日のワンピースとリボンはママが夏祭り用に買って来てくれたものだと言っていた。


「ゆのちゃん、ここふくらんできたよ。」

「ほんとだね。」

「すごいすごい、ふくらむ!」


ぴょんぴょん楽しそう。その様子を見ていると面倒臭い気持ちがやわらいでゆくのは、気のせいだろうか。


「りのちゃんもふくらましたい。こうたいして。」

「いいよ。」

「ありがと。」


きちんと挨拶を言える良い子なのに。残酷な出来事は世の中に溢れている。

あたしもそうだった。毎日虐げられて、絶望の淵にいつも在った。今は少しだけ、抜け出すことが出来た。あたしはもう幼くないから自分でこの施設に来ることを選んだ。ここに居る理由もわかっている。幸せではないけれど、良い方向に変化は起きた。

だけど、利乃ちゃんは。何も知らない。彼女に降りかかる残酷は、まだまだ終わっていない。