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「ゆのちゃん、おはよう。」
あの日から、女の子はあたしの姿を見つける度に声を掛けてくるようになった。
「おはよう。」
だから、必要最低限の言葉で返事をしている。
この数日で得たのは、彼女の名前が利乃でもうすぐ五歳になるということだった。つまり、りのちゃんのいもうととおんなじだ、というあの発言は、あたしが彼女の妹と同じ名前だということを示していた。
それを知って合点がいった。彼女、利乃ちゃんは名前だけを理由にあたしに懐いている。そうでなければ、こんな金髪の目つきの悪い奴になど近付かないだろう。
「りのちゃん、となりでたべていい?」
「うん。」
横で朝食を取ることを断る理由はない。自分をりのちゃんと呼ぶ、まだ幼い女の子。
ここでは自分で朝食のトレーを取ってから席に着く。利乃ちゃんは覚束ない手付きでテーブルにトレーを乗せると、他所のテーブルから子ども用の高い椅子を引っ張ってきた。元在った普通の椅子を端にどけると、彼女は嬉しそうに笑った。
「ありがと。」
その笑顔はきらきら輝いていた。虐待されていたなんて信じられないくらい。こんなに小さな可愛い子を叩く人が世の中に存在することが、酷く恐ろしくて悲しい。この子はまだ、その傷の重さすら知らない。

