「一周目はウォーミングアップを兼ねてゆっくり行こう。二周目はペース上げるからな、ついてこいよ。」
「はあ。」
溜め息しか出ないが、軽やかに駆け出した後ろ姿に続く。
外周は約三百メートル。三周で計九百メートル。毎日自転車で施設と学校を往復することで少しは体力が身に付いてきた気がするが、途方もない距離に思えてならない。
「疲れた。」
案の定、一周走ったところで息が上がった。頭のてっぺんで吹き出した汗が髪の隙間を伝って頬に落ちる。脚はだんだん重みを増す。
「がんばれ。ペースはこのままでいい。」
まだ余裕そうなセンセイが振り返って言った。既にへたれているあたしに譲歩したのだろうが、今のペースでも十分辛い。前を走る背中が徐々に離れてゆく。
校庭ではサッカー部が練習をしていて、時折大きな声が響く。
ひたすらセンセイを追った。余計なことは考えずに、ただ足を前へ。走る。
「あと一周。」
振り向いたセンセイの額にも汗が光っている。眉に引っかかった滴を袖で拭って、少し、距離を詰めた。
不思議と一周目の苦しさが和らいでいる。走ることに身体が慣れ始めたのかもしれない。何も考えられない。目の前のTシャツが揺れ動く様子だけが視界の中心にある。
ずっと使っていなかった身体の至るところが動いている。全力で走るこの感覚、部活に参加していた頃はよく味わっていた。

