ステップ・ブルー


「浮田さん!」


ーーあと一秒。いや、あと0.5秒でいい。後だったらよかったのに。


バタバタと騒がしい足音と共に聞き慣れない声がしたので、不機嫌に振り返る。

下に青ざめた顔の男がひとり。どこかで見たことのあるような顔。


「そんなところで何しているんだ!」


男は必死な形相で大声を荒げた。

どこかで見たと思ったら、さっきの担任だとかいう奴がいた。面倒臭いな。馬鹿馬鹿しい、やってらんない。


「何って、決まってるでしょ?」


愚問もいいところ。わかっているくせに、まどろっこしい。

風もあたしに賛成するかのように速度を上げた。バサバサとスカートがはためく。


「どうした、その痣…。」


あらわになった脚を見て、そいつは目を丸くしている。

それもそのはずだろう。この脚の、通常スカートで隠れる部分は、変色した肌が大半を占めているのだから。

アイツはずる賢い。見えないところを狙って痣をつくる。


「放っておいて。あんたに関係ないでしょ。」

「でも僕は君の担任だから。」

「担任が何?だったら何なの?」


苛々する。邪魔しないで。

幸せに過ごしているあんたに、あたしの絶望はわからない。


「君が悩んでいるのなら話を聞いてあげたいし、困っているのなら助けてあげたい。」

「綺麗事ばっかり言わないでよ。」


大人はずるい。卑怯。自分の都合で子どもを振り回し、平気で嘘をつき、傷付け、虐げる。誰もあたしに心があることを認めてくれない。


「僕はまだ教師になりたてて、右も左もわからないけれど、でも君の気持ちはわかるかもしれない。」


その男は額に汗を滲ませて苦しい表情でこちらを見上げている。そんな顔、どうせツクリモノ。本当に心配しているはずない。


そのとき、ふと、思いついた。

おもしろい、遊んであげるよ、センセイ。


「本当にあたしを救いたいって思ってる?」

「思っているよ、もちろん。」


信じたんじゃない。

試したんだ。