昨日の帰り際、センセイが明日十時に学校に来るようにと言った。夏休み早々どうして登校しなければならないのかと抵抗しようかと思ったが、予定はすっからかんだし、まだ慣れない施設に一日中いるよりはマシだろうということで従った。

学校は児童相談所よりも更に遠くなった。施設は隣の中学校の校区に当たるのだから当然だ。中学三年生という時期と施設に入るに至った経緯に大きく関係があるセンセイの存在が考慮され、転校はしないことになり自転車での通学に切り替わった。自転車は施設から借りた。自転車でも二十分以上はかかる。往路だけで重労働だ。

今日も暑い。太陽がぎらぎらと体力を奪ってゆく。全身から噴き出る汗を拭いながら校舎内に入る。冷房はないが直射日光が当たらないというだけで随分涼しく感じた。


「お、来たな。」


職員室の扉を開けるやいなやセンセイが声を上げた。センセイは扉に近いデスクにいた。冷房できんきんに冷えた空気が流れてくる。生き返った心地だ。


「暑い中頑張ったな。中入って。」


立ち上がったセンセイに手招きされて後ろ手に戸を閉めた。職員室に来たことなんて入学以来数回しかない。教師のまばらさが夏休みらしい。

背中についていった先は隅にあるパーテーションで区切られたスペースだった。小さい机と向かい合わせに椅子が二脚ずつ。促されて奥に座ると、センセイは一度離れてプリントの束を抱えて戻って来た。そしてパーテーションのひとつを移動させて空間を閉じてから腰を下ろした。


「遠かっただろ?」

「すごく疲れた。」

「ちゃんと朝ご飯食べてきたか?」

「うん。」


夏休みでも変わらないセンセイ。もう少しラフにしても良さそうなものだけれど。実際さっき見た数人の教師はTシャツやジャージ等楽な格好をしていた。