夏休みまで五日に迫ったある日、施設行きが決まった。アイツとの話し合いの内容は詳しく聞かされなかったが、アイツが生活費を持つという条件であたしは施設に預けられることになったのだ。

きっとアイツはせいせいしているだろう。大嫌いな母親似の大嫌いなあたしの顔を見ることがなくなって。こちらもせいせいする。

本当に解放されたのだ。一時的ではなく半永久的にあの家から離れられる。

そして太陽の照り付く夏休み初日に引っ越しが決まった。


「荷造りは終わったか?」


引っ越しはセンセイが手伝ってくれることになった。引っ越しとは言っても家具や電化製品を運ぶのではないから、児童相談所に置いてある衣服類と教科書の他はスーパーから貰ってきた小さな段ボール一箱で収まった。


「うん。これだけしかないから。」


両手でやすやす抱えられるくらいの荷物しかない。あたしの存在はこんなにさくっと消してしまえる程しかなかったのだ。

荷物はトランクに、あたしは後部座席に乗り込む。車内は冷房が効いていて涼しい。家から車までの十数メートルを歩いただけで吹き出してきた汗がするりと引っ込む。


「浮田。」

「何。」


五分程走ったところでずっと黙っていたセンセイが突然話し出した。


「これで、よかったのか。」

「何が。」

「遅かったけど、浮田を救い出したと思っていた。でも、親と離れて施設に入ることになって。三年生のこの時期だから転校はしないことになって、学校までは自転車で二十分はかかることになるし。」

「……。」

「浮田の人生の舵を無理矢理きってしまったような気がしてさ。」


センセイが今どんな顔をしているかわからない。ルームミラーには額しか映っていない。そんなこと考えていたなんて。