「浮田。」


途端に声色に真剣味が伴った。視線を合わせる。


「煙草は止めよう。」


真っ直ぐな瞳で射抜かれる。

初めて煙草にふれられた。ずっと知っていただろうにふれられたことはない。今まで何も言われなかった方が不思議と言えば不思議だ。


「わかった。」

「え、いいのか?」


あたしが無抵抗であっさり了承したことが意外だったのだろう。センセイは拍子抜けしたように目を丸くした。


「自分で止めろって言ったんでしょ。」

「そうだけど。」

「助けてもらった借り。」

「そうか。」


元々違反しているものを止めたくらいで借りを返したことにはならない。けれどそんな言い訳ですらセンセイが嬉しそうに笑うから、目線を外すしかない。それでも助けてもらったきりではあたしが気持ち悪いから、それを理由として置いておく。

煙草を吸い始めたのは単なる反発と自棄だった。金髪にして煙草を吸って学校をサボって、もう普通になれないのならどこまでも堕ちてやろうと思ったのだ。身体の表面が傷付けられて汚されていくから、いっそ内側も真っ黒に染まってしまえばいいと。

おいしいなんて感じたことはない。唯一煙草の良いところを挙げるなら、煙。するする軽々と天に昇ってゆく様は見ていて飽きなかった。


「すぐに止められるか?」

「依存する程吸ってない。」


大きく息を吸い込む。生温い七月の風が肺に飛び込んでくる。煙草と異なって澄んだ空気の方がやっぱり気持ちいい。

もうアイツに傷付けられることはないのなら、煙草は用無しだ。