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児童相談所にいたら煙草は吸えないな。もう入手経路もない。
屋上から眺める景色は変わり映えしないが、だんだん淡色から原色に移り変わってゆく。まだ十時前だというのに長袖のシャツを通して鋭い日差しが肌をじりじりと焼き付ける。暑い。
「おはよう。」
声に振り返る。センセイがいた。ちょうど煙草を揉み消したところだった。
「最近ちゃんと学校に来るようになったな。」
センセイはあたしの横に同じように胡座をかいて座った。最近距離が近く感じるのは錯覚か。
「ただいるだけだけど。」
「それでも嬉しいよ。」
変な人。ただ学校に来るだけで嬉しいと言う。本当にただいるだけなのに。勉強していないどころか教室にも行かずにサボって、さらに喫煙という法律違反。
「後はちゃんと学校に来たら自分から顔を見せに来てくれるといいんだけど。」
「やだよ、めんどくさい。」
「怪我の経過はどうだ?通院続きそうか?」
「まあまあ。あと一回診せればいいって。」
「そうか、よかった。治りが早いのは若い証拠だな。」
「おじさんみたい。」
「浮田から見たら二十五なんておじさんだろう。」
そうでもないよ、とは言わなかった。視界の隅でセンセイが笑うから、そんな擁護するような台詞を述べるのはくすぐったい気がした。
センセイは教師だけれど、あたしにとっては教師という感覚があまりない。授業をするのを見たことがないからかもしれない。スーツを着ているだけの、人だ。