「それより、浮田のお父さん。」
その呼び方をしなくなって随分経つ。世界一嫌いな人物を出されて内蔵が熱くなる。
「両親が離婚したのは小学生の時だっけ。」
「五年生の時。」
「それ以来三者面談も授業参観も行事も一切来ていないって聞いた。電話が繋がるのも滅多になくて、こういう言い方をしていいかわからないけれど、娘にあまり関心がないようだ、と。」
慎重に言葉を選んで話してくれている様子。ストレスの捌け口以上の関心がないことは日々思い知らされているから聞いたって何の感情も湧かない。
前の担任は時折アイツにあたしの遅刻やサボりを報告していたようで、それを理由によく暴力を受けた。学校からの連絡なんて、アイツにとっては殴る蹴るの都合のいい建前になるだけだ。
「初めて浮田に会った時痣がたくさんあるのを見て、これは怪我をして出来たものではないと直感したんだ。大学の教職課程で児童相談所について学んだことがあって、虐待なついても勉強した。そこで見た子どもたちの傷痕と、浮田の痣はそっくりだった。お父さんの件を聞いていたこともあって、もしかして、と思ったんだ。」
同じ箇所を繰り返し暴行されていると、衝撃の強弱や新旧によって痣がまだらに色づく。タイダイ染めに近い感じ。怪我ではこうはならない。それに気付いてくれていた。
そして、あたしも気付いていたことがある。今年度になって以来、アイツから学校から電話があったと聞いたことが一度もないことを。センセイは気付いた上で連絡をしないでいたのだ、きっと。

