「ここにいるのは皆、結乃ちゃんと似たような境遇でうちに来た子たちよ。さあここに座って。すぐ用意するわね。」


複数あるテーブルのひとつに言われた通りに座る。斜め前では二、三歳の男の子がつたない手付きで目玉焼きを食べている。

一時保護をされている子どもだけでこんなにいるのだ。あたしの似た状況の子がこんなにたくさん。親に暴力を振るわれたのだろうか。食事を与えられなかったのだろうか。理由は人それぞれだろうが、親と離れるべきだと判断されたのは同じ。

自分だけが恵まれていないと思っていたわけではないけれど、身近にはあたしのような境遇の人はいなかったから。周囲は皆一様に幸せそうに見えた。クラスメイトの親の愚痴なんて幸せな状況を当たり前だと享受している証明でしかなくて、あたしにとってはただの甘えに聞こえた。初めて目の当たりにして、変な安心と些細な絶望を感じる。

「お野菜残しちゃだめよ。」
「今日は部活だっけ?」

声を発しているのは全部で四人いる職員ばかり。子どもだけは静かだ。

無言のまま食事を終えると、各々部屋から出て行った。どうやらそれぞれに個室があるらしい。あたしも倣って戻ろうとしたら、例の女性に引き止められた。


「沖田先生が来るから、十時頃ここに来てくれる?」


来るんだ、センセイ。土曜日なのに。

女性に頷いて部屋に戻る。部屋に続く廊下に数人が歩いているが、一言も発さない。なんだかここにいると異端児ではないような気がしてくる。ここにも金髪の人はいないけれど視線すら寄越さない。その無関心さは嫌ではなかった。学校で遠巻きにされている時と状況は一致しているのに何故だろう。

着るものがないので仕方なく病院に運ばれるまでに着ていた部屋着に着替えた。布団に寝転んで約二時間を過ごした後、十時ちょうどに食堂に向かった。座って待っているとセンセイが来た。