「浮田、児童相談所って知ってるか。」
児童相談所。名前くらいは聞いたことがある。
センセイは落ち着きを取り戻したように、続けた。
「児童相談所は、簡単に言えば子どもを守るための施設なんだ。虐待されている子どもの保護をしたり逆に子どもとの関わりが上手くいかない親をサポートしたりする。」
「……うん。」
「浮田がこんな状態になって、もう見過ごすことは出来ない。」
「……うん。」
なぜ、泣いているのだろう。両方の目尻から耳元に涙が流れている。白い天井が滲むから、病院独特の冷えた空気がするから、センセイが真剣に話をしているから。あたしは泣いてしまうのか。
昨日流した涙とは違うって、どうしてわかるのだろう。
「児童相談所に、通報する。」
「……。」
頷くことしか出来ない程に泣いている。
ずっと辛かった。助けてほしかった。声にならない声でずっとずっと叫び続けてきた。
言っても無駄だって自分に言い聞かせてきたのは期待してしまいたくなかったから。普通に楽しく中学校生活を過ごそうと希望を抱いていた十二歳のあたしが簡単にどん底に落ちたように、期待した分だけ絶望の深さが増すことをもう知っているから。
センセイは、救いの手になってくれるのかな。
「もっと早く助けてあげられなくて、ごめん。」
掠れた声に向くと、肘を膝に付けた姿勢で両手で額を押さえて俯いていた。隙間から、きらりと光るものがある。
「なんで、なんでセンセイが泣くの。」
センセイが今流している涙とあたしが流している涙は、きっと同じ味がするだろう。
それは六月最終日の朝だった。

