元担任はあたしの腕をひっつかむと、強引に引っ張り上げた。


「離して。」

「サボりが認められるとでも思っているのか?ふざけるのもいいかげんにしろ。」


口調だけならそこらのヤクザと大差ないと思う。掴まれた箇所がまだ新しい痣と重なって、じんじんと痛い。鈍い痛みが常に付きまとう。


「だから、頭痛いんだってば!離してよ!」

「嘘をつくな!そんなふざけた髪の色しやがって。」


無理矢理連れて行かれたのは体育館。全生徒が集合している。数人がちらちらと好奇と軽蔑の視線を投げてくる。

あたしの髪は綺麗な金髪だ。もう二年近くこの色に染めている。染髪はもちろん校則違反。金髪のせいか、サボり癖のせいか、実際どっちもなんだろうけれど、元担任はあたしが嫌いだ。

体育館は始業式の真っ最中で、ちょうど新任の先生たちを紹介しているところだった。


「沖田芯之介です。三年六組の担任を任されることとなりました、よろしくお願いします。」


ふと壇上に目をやると、まさに今年度の担任になるセンセイの挨拶だった。別に誰だっていい。どうせ教室には行かないし。

まだぱきぱきのスーツに身を包み、軽くお辞儀をした彼を、横目で眺める。まだ若い彼に、女子生徒がちらほらと歓喜の声を上げたのが聞こえた。

後に続いた教頭の話によると、担任になるはずだった先生が昨日急病で入院することになったため、その先生が退院するまでの間、本来副担任であった新米が代わりを務めるとのこと。


学ランを羽織ればまだ高校生で通りそうな幼い顔のセンセイは、歪んだあたしの心をえぐった。

緊張の裏に幸福や満足や希望が見える。ずっと夢見てたこの場所に立てて幸せです、とでも言わんばかりに。満ち足りた面持ちで、背筋をぴんと張り、誇らしげに立っている。

他人の幸せそうな顔が、憎い。あたしにはあんな顔は出来ない。限りなく遠い。

人間は皆平等だなんて、ただの建前だ。本音は違う。

この鉄筋コンクリートだって、新米センセイだって、自分たちは勝ち組でお前は負け組って思っているに違いない。