「バスケは?一年の時所属してたよな?」
そこを突かれるとは予想外だった。一瞬動揺してしまった。センセイは教師なのだから、学校が持っているあたしの情報はいくらでも手に入れることが可能だ。バスケ部のことも資料を見るか一年の時の担任に聞いたのだろう。
「なんとなく入部しただけ。」
「でも他に部活はたくさんあるぞ?」
「運動部がよくて、楽しそうだったから。」
「楽しいことがやりたかったのか。」
ひっかかりを覚えた。楽しい、こと。最近そう思ったことがあっただろうか。その前に何かを楽しもうとしたことがあっただろうか。
「……そりゃあ、みんなそうでしょう。」
「そうだけど、それが浮田にとっては体を動かすことだったんだな。今からでも部活やってみるか。部活ではなくても地域のスポーツサークルとか。」
「冗談言わないで。」
何を言っているのだ、この人は。今更そんなのに入れるはずがない。だいたい体力もないし、出来っこない。
しかし、ふと思い出す。体育館の床とバッシュが擦れる音、鳴り響く笛、ドリブルの心地よいリズム、流れる息切れとうっすら汗の匂い。あたしがバスケ部で活動していたのは三ヶ月足らずだったから、基礎練習とボール拾いや片付け等の雑用しか経験していないけれど、部活が楽しみだった。毎日同じメンバーで顔を合わせ、同じ目標に向かって練習を重ねる。充実感に満ちていた。
何故運動部の中でバスケ部を選んだのか。その理由を本当は覚えている。
「今は何もないって思っているかもしれないけど、絶対にいつか見つかるから。だからやってみたいことがあったら遠慮なく言えよ。」
センセイが真剣な眼差しで訴えてくるから、目を逸らした。
「絶対なんて、軽々しく言わない方がいいと思うけど。」
あたしではない誰かなら、その通りなのだろう。どうして、あたしなのに、不良と呼ばれているあたしなのに。
何故センセイはあたしを構うのだろう。それだけがわからない。