叩きつけるような雨が降る中、センセイが持って来たのはある冊子だった。
「いらない。興味ない。」
「暇つぶしでいいからさ、ただ流し見るだけでいいし。」
今日は保健室のテーブルで図書館から借りた適当な本を読んでいた。本当の体調不良の生徒で二つあるベッドは埋まっている。
前に置かれたのは、「考えてみよう!将来のいろいろ」と大きく書かれた週刊誌くらいの冊子。三年生向けにどこからか配布されたものだろう。
将来。そんなのとっくに考えている、働いて家を出るって。高校になんか行かない。
「早く戻れば。」
「三時間目は空き時間なんだ。残ってる仕事もないし。」
どうやらあと四十分余りここにいるつもりらしい。教師って意外と暇なんだね。
しかし、読書なんて負担まともにしないから、全然集中出来ない。追いかけた文字の羅列はするする紙の上を滑ってゆくだけ。
「堅苦しい話をするのもなんだし、とりあえずこの時間は先生とお喋りしよう。」
「何それ。お喋りってしようと誘ってするもんでもないと思うけど。」
無視しようとも思ったのだけれど、本の内容が全く頭に入ってこないので、しかたなしに誘いに乗ることにする。本を閉じてテーブルに置くと主人公の名前すら忘れてしまった。
そういえば、最近のあたしはセンセイくらいしか話し相手がいない気がする。北本先生とも時折言葉を交わすけれど、お喋りと呼べる程のやり取りは皆無だ。
「何かやってみたいこととか、興味があることはないか?」
「特にない。」
「じゃあ好きなこと、趣味は?」
「特にない。」
「ひとつくらいあるだろう。」
「ないってば。」
好きなこと、興味があること。訊かれても答えられない。何にも思い浮かばない。あたしって空っぽなんだ、って実感する。
ずっとそうなのに気付かなかっただけなのか、教室で暴れた日にそれすら蹴飛ばしてしまったのか。あたしはいつからこんなに空っぽだったのだろう。