「……何。」
走り出した瞬間、左腕を掴まれた。どうやらしつこいタイプだったみたいだ。
まさか今ここでどうこうされるなんてことないだろうけれど、こんなこと何回も経験あるけれど、深夜の道路、しかも雨。コンビニの灯りと数個の街灯しかない場所で、見知らぬ男に触れられれば、やっぱり怖い。
「可愛いね、高校生?」
傘を少し上げて男の顔を見る。明るい短髪で、耳やら鼻やらにピアスがぶら下がっている。
「離して。」
言いながら、掴まれた左腕を仰向けに捻る。傘を後ろに傾ける。白い生地が、あたしと男の傘の間の雨に当たる。
生地が腕に張り付いて透ける。
「わっ。」
男は驚いて、腕を離した。この隙に、トドメを。
「あんたの腕もおんなじにしてあげようか?」
すると、男はまるで幽霊でも目撃したような形相で、コンビニの方に走り去っていった。
あたしの左腕には、白い生地を通してでもわかる、幾つもの赤い線。手首から肘にかけて、密集している。
「……ばかみたい。」
全てが馬鹿馬鹿しくなって、傘を閉じて振り回しながら、ただ時間を潰すために歩いた。
明日も雨だといい。

