「浮田。」
一昨日梅雨入りが発表された。外は止む気配のない雨が降っている。これからしばらく雨が続くと思うとうんざりする。
今日は朝から保健室登校をしている。
「なんで来てんの。」
保健室に現れたセンセイを見て、最初に出てきた言葉がそれだ。
金、土、日曜日と修学旅行があり、今日月曜日と明日火曜日は三年生のみ振替休日となっている。修学旅行に参加していないあたしはこうして登校しなければならないが、当然参加したセンセイは今日休みのはず。
「これを渡しに来たんだ。」
センセイが差し出したのは、お土産らしき紙袋。京都奈良のお土産らしい和風のイラストが描かれている。
「何。」
「開けてごらん。」
やけに楽しそうだからとりあえず開けてみることにする。中には包装紙にくるまれた四角い箱があった。お菓子かな、と予想しながら包みを開封する。
中から出てきたのは、平べったい生の餃子みたいな、三角形の和菓子らしき食べ物。
「何これ。」
「八ツ橋。京都の名物だよ。」
「ふーん。」
驚いた。まさかお土産買ってきてくれるなんて思っていなかった。おせっかいなセンセイらしいけれど、嫌な気はしない。
「北本先生、ちょっとだけ食べちゃだめですかね?」
「いいですよ、今日は見逃します。でと汚さないようにしてくださいね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
修学旅行、か。京都も奈良も行ってみたい気持ちはあったけれど、教室にすら行けてないあたしには無理だ。京都奈良に行くのと修学旅行に行くのとは全然違う。
小学六年生の時修学旅行で鎌倉に行って以来、ほとんどこの町を出ていない。遠くに行くっていい。どこか遠くに行きたいと思うことはたまにある。