昨日は八発だった。背中が一番痛い。鏡で見てみたら、肩甲骨の辺りに大きな紫色の痣の塊。出来たての紫と、消えかけの薄緑、生き残った肌色。しこたま絵の具の筆を洗ったバケツの水みたい。汚くて、醜くて、気持ち悪い。

唇を噛み締めて、左腕を捲る。血管に垂直に引かれた幾多の赤い線。ぷっくりと腫れたそれは、真っ直ぐに赤い。


右手に握った剃刀を、腕に垂直に押し当てて、さっと引く。

一瞬の痛み。直線に滲む赤い血。少しほっとする。痛みが高揚感に変わる。


あと七本。だんだん手首に近付くように、平行に赤い線を引く。


あたしの左腕は傷痕だらけだ。繰り返し、赤く刻んでしまう。だけど、止められない。

もういつからか正確に思い出せないくらい、自然に、そしてずっと前から、この傷はある。止められないのだ。

死にたいのとは少し違う。あの日屋上に立った気持ちとは異なる。

アイツが殴るから。あたしの身体なのに、アイツが傷をつけるから、だから。アイツがつくった痣と同じ数だけ、あたしはあたしを痛めてしまう。

安心するんだ。

殴られて蹴られていると、まるで人間ではないみたいに、ぬいぐるみかのように扱われる。心なんて見ていなくて、あたしが痛みを感じていることは全く無視で。

真っ赤な血を見ると安心するんだ。

生きているんだって、人間なんだって、思えるんだ。

アイツが奪った分の人間の心を、あたしは左腕に刻印し続けている。

それから、滲む赤とともに身体中の膿が排出される気がする。内出血の血を流すような感覚。我慢で膨れた風船の空気を抜くような爽快。


この作業は、明日を生きるために不可欠だ。