煙はこんなに灰色で汚いのに、大気はすぐに浄化して何でもなかったような顔をする。空が青いのは、空の心が広いからだと思う。

屋上で吐き出した煙草の煙は、するすると天に昇って消える。

昨日から熱っぽくて体調が悪い。保健室で寝ていようかとも思ったが、看病はされたくない。埃っぽいコンクリートの地面に転がって煙草を吸う。もう三本目。

そろそろ髪を染め直さなきゃ。根元が黒い。

髪はブリーチのしすぎでキリキリと傷んで、肺はニコチンまみれで、身体中は痣だらけで、腕も傷だらけで、ぼろぼろで。煙のように空気に溶けられたら。浄化してもらえるのかもしれないけれど、あたしの身体はしっかりと此処にあるのだ。

あたしはどうなってゆくのだろう。このまま生き続けて、どんな人生を歩むのだろう。中学を卒業したら、働けるようになったら。しかし三月生まれのあたしは十六歳になるのが遅い。いつ抜け出せるのだろう、この生活から。考え始めると止まらない。

両親が離婚しなければもう少しまともだったのに。母親は母性に溢れたタイプではなかったけれど、仲が良くも悪くもなかったけれど、とりあえず最低限の世話はしてくれたし必要なものは買ってくれた。日々の生活に困ることはなかった。

母親がいた頃はアイツに暴力を振るわれることもなかった。そもそも仕事人間のアイツとは関わる時間が少なかった。概ね普通の生活をしていたと思う。

もしも、を考えても、もしも、は決して起こらない。奇跡なんて、ない。

きっとロクでもない人生にしかならない。才能も学もないあたしに出来るのは、せいぜいバイトくらいだ。友達もいない趣味もない、ただ生きるための最低限を稼いで消費してゆくのみ。高が知れる。

奇跡が起きたら、誰か何かがこの現状を打破するきっかけになってくれたら、あたしは最後のチカラを振り絞って全力を出す。

一瞬、センセイが浮かんでしまう。

馬鹿馬鹿しい。ちょっと優しくされたくらいで救世主だなんて期待はしない。

あの人は教師だから、担任だから。それだけでしょう。

これからも使われることなく仕舞われ続けるだろうあたしの最後のチカラの存在意義は、煙よりも薄っぺらい。