インターホンが鳴った。三時を回った辺り。二時間サスペンスの再放送を流し見ながらリビングのカーペットの上でごろごろしていたところだった。
重い身体を起こして立ち上がる。覗き窓から見えたのはセンセイだった。
「今日学校休んで、どうした?体調悪いのか?」
ドアを開けるやいなやまくしたてられた。しかめっ面になる。
「別に。具合悪いんじゃないけど。」
「なんだ、よかった。昨日の食事に問題があったのかとかいろいろ考えていたから。」
わかりやすいぐらい安堵の表情を浮かべるセンセイ。そんな些細なこと、気にしたりするんだ。
「心配するから、休むときは一言連絡入れること。」
「嫌だよ、面倒。」
「学校の電話に掛けにくいなら、僕の携帯でいいから。携帯持っているか?」
「持ってない。」
「じゃあ少し待って。」
センセイはスーツにしか似合わない大きな黒い鞄から手帳を取り出すと、何かを書いて紙を破って寄越した。
「これ僕の携帯の番号だから。浮田の自宅の電話も登録してわかるようにしておくし、休む時とか困ったことがあった時とか、いつでも掛けてきていいからな。」
紙に書かれた十一桁の番号。教師が生徒に個人の携帯番号教えちゃっていいんだ。本当は服務違反だろう。けれども、教えちゃうんだ、あたしに。
「……掛けないよ、」
たぶん。は声にならずに口の中で消えた。とりあえず受け取った。この番号が弱みになるかもしれない。利用してやればいいのだ。
なのに、悪用するアイディアが、ひとつも浮かばない。