しばらくすると、食欲をそそる香辛料の匂いが漂ってきた。


「出来たよ。」


その言葉と同時に、こんもり盛られたカレーがふたつ運ばれてきた。

ギンガムチェックが縁取られた色違いのお皿。お揃いのスプーンもある。センセイはオレンジ色の方をあたしの前に、黄緑の方を自分の前に置いた。

意外。いつも地味なスーツばかり着ているくせに、食器は可愛いんだ。


「カレーは食べられる?」

「好き嫌いないって言ったでしょ。」


正直すごく食べたい。給食でもレトルトでもコンビニのでもないカレーを食べるのは、いつぶりだろう。

必要に迫られて家事は自力で習得したけれど、料理だけはどうにもならない。携帯もパソコンもなければレシピ本を買うお金もない。教えてくれる人もいない。作れるのは簡単な炒め物くらいで、料理はさっぱりだった。

だから、作りたての料理は心を誘った。けれどあからさまに嬉しそうな表情を見せるのは憚られるから、無関心を偽りながらソファーからカーペットに降りてスプーンを握る。


「どう?」


おいしい。あったかい。

じゃがいもが舌の上でほろりとほぐれた。

不特定多数ではなくて、あたしのために作られた料理を食べるのは、いつぶりだろう。