ステップ・ブルー


「好き嫌いあるか?」

「特にない。」

「おお、えらいな。」

「普通でしょ。」

「大人になっても好き嫌い多い人はいっぱいいるから。」

「あっそ。」

「僕は茄子が食べられない。」

「訊いてないし。」


この部屋、なんだか足りない。適当に返事をする合間にずっとあちこちを観察していたら、ふとそう思った。

なんだろう。テレビ、冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、トースター、テーブル、ソファー。一通り揃っているのに、なんだろう、何が足りないのだろう。

でも足らないのだ。変なの。


「もう六時半になるけど、お家の方心配していない?」


キッチンからあったかい香りが泳いでくる。からっぽの胃が、きゅうっとうずうずしている。生きている匂いだ。


「してない。」


心配など、するはずない。センセイはなんにも知らない。


なんとなく話すのが嫌になって、勝手にテレビをつけた。夕方のテレビはニュースかお子様向けの番組ばかり。適当なニュースばんにチャンネルを合わせ、見ているフリをする。

キッチンの音って、どうしてか心地よい。水を流す音、包丁の抑揚のないリズム、ごうごうと唸るガスコンロ、それらを聞くことは心臓の鼓動を感じることと似ている。