水色のマーチに揺られて二十分余り。
似たような住宅が林立する隣町の一角にセンセイの家はあった。煉瓦造りの質素なアパートだ。センセイのスーツ姿みたいに、取り立てて特徴がない。
「どうぞ。」
促されるままに部屋に上がる。男の、しかも十近く年上の人の部屋に入るなんて初めてだ。どんな風なのかと思っていたが、至って普通だった。
玄関から廊下が延びており、廊下の右側には二つドアが並んでいる。おそらくどちらかがお風呂で、もう片方がトイレ。廊下の先には小さなキッチンがあり、その向こうにはテレビとテーブルとソファーが置いてあるからリビングだろう。テレビの向かいの窓は引き戸になっていてもう一部屋あるようだ。寝室かな。
「ふーん。」
一番奥まで行って、茶色のソファーに腰を下ろして膝を抱える。
センセイはまだ落ち着かない様子だ。車に乗っているときからずっと。いい子のセンセイだもん。生徒のあたしを車に乗せて、さらには部屋にまで上げていることが周囲にしられないか不安なのだ。
後悔しているでしょう、困惑しているでしょうって言ってやりたい。
あたしが飛び降りないために交換条件で恋人になることを引き受けた。恋人ってこういうことだよ、遊びに行くくらいするんだよ、一人暮らしなら尚更。
一度握った弱みをそう簡単に放すもんか。最大限に利用してやる。
「夕食食べる?たいしたものは作れないけれど。」
「うん。」
返事をすると、センセイは一旦引き戸の向こうに消え、着替えてきてキッチンに立った。
そっか、さすがに家ではスーツは着ないよね。当たり前ながら物珍しくて、ジーンズにカットソー姿をつい眺めてしまう。スーツ以外の服装を初めて見た。雰囲気が変わる。