扉を開けると、薬品臭い無機質な匂いが流れてきた。保健室ってどうしてこう、ひんやりと冷たい独特の空気が漂っているのだろう。


「浮田さん!」


養護教諭が驚いたようにらこちらを見た。一瞥してその前を通り過ぎ、一言告げて勝手にベッドのカーテンを開ける。


「具合悪いんで。」

「沖田先生すごく心配していたのよ。学校に来る気になってくれてよかった。」


カーテンを閉めて靴を脱ぎ、真っ白な硬いシーツに身を預ける。具合が悪いのなんて嘘だ。

シーツと同じ素材の掛け布団を耳まですっぽりと被った。全身をこの白さに包まれていると、病人の気分になるから不思議。あちこち痣と内出血だらけのあたしは紛れもない怪我人だけれど。

学校に来たのはもう約二週間ぶりだ。結局、童顔センセイは毎日欠かさず家にやってきた。しつこくてうんざりする。ストーカー気質というか、粘着質なんじゃないの、あのセンセイ。

だから、決してほだされた訳ではない。毎日毎日つきまとわれるこが気持ち悪いだけ。


「浮田!やっと学校に来る気になったか。」


いつのまにか勝手に“さん”を取ったセンセイが保健室にやってきたのは、給食の時間だった。いつにも増してにこにことご機嫌だ。


「あんたのために来たんじゃない。家にいるのに飽きただけだし。」

「それでも嬉しいよ。教室に行って給食食べない?」

「行かない。」

「でもお腹空くだろう。ここで食べさせてもらうか?持ってくるよ。」

「……。」


何も返事をしていないのに、ちょっと待ってて、と言い残し、カーテンを開けっ放しでセンセイは踵を返した。なんなの、あの人。ポジティブ通り越して楽天家が過ぎる。

教師になれて幸せなのだろう。あたしとは違う。あたしがあんな風に幸せになることは、きっとない。