「……それとも、カレシ、として?」


意地の悪い笑みはお手の物。

カレシという単語を出した瞬間、彼の顔がさっと歪んだ。そして明らかに困った表情を浮かべている。

困るに決まっている。わざとそう仕向けたんだもん。綺麗事言ったあんたが悪い。その場しのぎで済む程甘くないよ。あの日以来その話題に触れなかったからって、忘れたとでも思っていたわけ?


「答えられないの?」


空気が濁っている。ほらね、大人が混じると世界は汚くなるんだ。


「先生とか彼氏とか、ひっくるめて、僕は君が大切だよ。」


なにそれ。あたしが訊いたのは二者択一の質問なのだけれど。そんな曖昧な答えでは納得出来ない。

ぽかぽかと照りつける太陽、体温が上昇する。


「君が毎日ここにひとりぼっちでいるのが心配だから。」


ぎゅっと手を握る。伸びた爪が手の平に食い込んで、痛い。


「学校に来て欲しい。」


心配なんて、どうせ口だけだ。嘘つくな。汚い大人には騙されない。


「浮田さんが学校に来てくれるまで毎日来るから。」


本当に来る気なのだろうか。きっと、今のところ来ているだけで、そのうち来なくなるに決まっている。いいセンセイぶっているだけでしょう。

けれども、事実になってしまったら。もしも、本当に来てしまったら。

爪の食い込みが痛くて、握る手を弱めた。