「うるさい。迷惑なんだけど。」

「あ、よかった、いたんだ。」


やけに嬉しそうな顔をしたセンセイが立っていた。髪や肩やスーツのズボンの裾が濡れていることから雨の激しさが伝わる。見下げることが多かったせいで、見上げる高さに目線があると違和感だ。


「なんなの。毎日毎日。」

「浮田さんと話がしたくて。」

「どうせ学校に来いっていう話でしょ。」

「それもそうなんだけど、他にもいろいろ。」


センセイは手に持っていた小さな鞄から何かを取り出すと、こちらに差し出した。


「桜餅、今日の給食で出たんだ。地元の有名な和菓子屋さんが特別に作ってくれたものですごくおいしかったから、浮田さんにもと思って持ってきた。」


その手の平に乗っているのは、ビニールで包装された桜餅。桜の花びらと同じ色をした丸い餅を桜の葉が包んでいる。潰れていなくておいしそう。


「桜餅嫌い?」

「知らない。食べたことないし。」

「じゃあ食べてみてよ。おいしいから。」


手元に突き付けられて、思わず受け取ってしまった。右手に乗せてから顔を上げると、にこにこした童顔の笑み。このくらいで仲良くなった気にでもなっているのかな。馬鹿馬鹿しい。アホらしい。

狭い玄関で向かい合っていて居心地が悪い。さっさと帰ればいいのに。


「部屋綺麗にしているんだね。浮田さんが掃除してるの?」

「どうでもいいでしょ。もう帰ってよ。」

「わかった、今日は帰るから、また明日。」


無言でドアを閉めて鍵を掛けた。

毎日来る気なのかな、本当に。明日もその次も来そうで厄介だ。

夢だった教師になれてハッピーなドリーム見ちゃっているのだろうな。きっと自分が熱血系青春ドラマの主人公にでもなったつもりなのだ。


ただ、桜餅。偶然食料が手に入ってしまった。空腹には逆らえなくて、袋を破く。

おいしい。コンビニで売っている団子とは異なる餅の食感。この葉っぱは食べられるのかな。それとも飾り?

試しに葉ごと齧ってみたら、甘さとしょっぱさが絡んで口の中に拡がった。