「センセイはさ、なんで教師になったの?」
「うーん。」
すぐに答えが返ってくる質問かと思ったが、センセイは腕を組んでしばし黙ってしまった。
「憧れの人が教師になりたかったから、かな。」
「ふーん。」
目を伏せているから、きっとその話題にはこれ以上踏み込んではいけないのだろう。何か、言いたくない、隠したいことがあるよう。初めてセンセイのそんなところを見た。
誰だって、ふれられたくないことの一つや二つはある、か。
「このまま生き続けて、何になるんだろ。」
夕立で空が暗い。雨脚が線になって景色を遮っている。遠くの方で雷が光り、僅かに遅れて音がこだました。
「どうした?急に。」
「急にじゃないよ。たまに考える。」
あの春の日が脳裏を横切る。
ひらひら舞う桜の花びら。世界はハジマリの色に満ちていた。だからあたしは、終わろうとしたのだ。
「悩みがあるのか?」
センセイは苦しそうな、小さな声。
声が聞き取りやすくなったと思えば、あっという間に雨が勢いを落としていた。視界がどんどん開けてゆく。
「ねえ、センセイ。」
「なんだ?」
「夏休み中にどっか連れてって。」
蒸し暑い空気が室内に充満してゆく。扇風機はからから回り続ける。雲の切れ間から太陽が顔を覗かせた。
まだまだ夏は終わらない。

