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夏祭りは五時に終わり、園内にいた人たちはぞろぞろと帰っていった。明日も祭りはあるので、軽く片付けをして明日に備え、時刻は午後五時半。

やっとささやかな風が吹き始め暑さが緩和されてきた。運営をした施設の皆とボランティアの人たちにアイスキャンディーが配られ、利乃ちゃんとセンセイとあたしは暑さで蓄積した疲労を楠の下で癒している。


「りのちゃん、きょうすっごくたのしかった。ゆのちゃんも?」

「うん、楽しかったよ。」

「しんちゃんも?」

「もちろん。」

「みんなでたのしいの、いいね。」


利乃ちゃんは、オレンジ味のアイスキャンディーを舐めながらはしゃいでいる。

去年の夏休みと言えば。毎日休みのあたしをアイツは詰り、より一層酷い暴力を受ける毎日だった。腕を切る回数も増えていた。あたしの身体はますます傷だらけになって、空を見続けて日々を過ごした。いつも頭がぼんやりしていた。

まだ青い空は徐々に色を薄めてゆく。細切れの雲がたなびく。


「ゆのちゃん、あしたもよーよーやさんやろうね。」

「うん。」


利乃ちゃんは、どこかの里子として暮らすことになるのかもしれない。この施設から出て行って、新しく人生を始めるのかも。


「しんちゃんは?」

「明日は、午後からなら来られるかな。」

「やったー!」


じゃあ、あたしは?あたしがここから飛び立つとき、出発先はどこだろう。


「……芯ちゃん。」

「えっ、浮田?」


ふざけてそう呼んでみたら、センセイが思いの外驚いた。その顔がおもしろくて、笑った。

隣で利乃ちゃんが掲げたおもちゃの指輪が、きらり、輝いた。