ふう、と口から煙を吐き出す。薄い灰色が、靄々と空に消えていく。


「全部、煙みたいに消えたらいいのに。」


始業式から一週間。死に損なったあたしは、学校にも行かずだらだらと時間を潰していた。昼間の誰もいない時間は家にいて、夕方アイツが帰ってくる前に家を出て、深夜寝静まった頃を見計らって帰る、の繰り返し。

昼間の今は、窓を開けたままベランダと部屋との境目に座って煙草をふかしていた。もう五本目だ。

マンションの二階から見る空はまだまだ遠く、鼻をくすぐる春真っ只中の匂いが途切れない。目の前の桜の木は、徐々に葉桜に近付いている。

綺麗なものはいつだって、人間の外側にあるのだろう。


突如、オーソドックスなインターホンの音が部屋に響き渡った。誰だろう。少々気にかかったが、無視。面倒臭い。

二回目が鳴る。しつこいな、無視無視。五本目を胡座の向こうで消して、六本目に火を付ける。

三回目。煙を吸って、吐いて。身体の表面みたいに傷を付けられない内側は、煙で真っ黒になってしまえばいい。背中がジンジンと痛む。

四回目のチャイムは鳴らなかった。さすがに諦めたのだろう。再び静寂の訪れた室内で、秒針のリズムだけが大きく存在感を示す。


「浮田さーん!」


一瞬、大音量で呼ばれたのが自分の名前だと気付くのに間が空いた。完璧な昼間の空気を切り裂く、能天気な声色に苛立つ。


「浮田さーん、下!」


言われるがまま手すりに近付き下を見てみると、声の主を発見した。童顔スーツ、沖田芯之介。一応あたしの担任だ。