桜の花びらが雨のように降っていたあの日。


「本当にあたしを救いたいって思ってる?」


あたしは最低だった。

ずるくて、卑怯で、子どもの武器を持って大人を気取った。


「思ってるよ、もちろん。」


あなたはとても優しかった。

童顔でスーツが似合ってなかった。それは今も変わらない。


「だから、そんなことやめるんだ。こっちに降りておいで。」


あなたは両手をひろげて、切迫詰まった顔をしていた。

あたしはその顔に笑った。


「浮田結乃さん。僕にできることなら、なんでもするから。」

「なんでも?本当に?」


信じたんじゃない。

試したんだ。


「死ぬなんてだめだ。」


あなたはなおも手を広げたまま言う。

試してやろうか。


「…いいよ。」


大人なんて、嫌いだ。

「でも、ひとつ条件がある。」