気まぐれな君も好きだから

「鰹の季節だね。」

「そうそう。あっ、そう言えば、歩未さん、覚えてる? 去年、俺と約束したこと。」

「え? あれ、何だっけ?」

「やだなぁ。忘れちゃったの? 去年、俺が切った鰹のタタキは全然売れないのに、パートさんが切ったのは全部売れるって凹んでたら、上手く切れるようになったら奢ってくれるって言ってたじゃん。」

「あ、そうだ。約束したね。」

「もう去年の俺とは違うよ。包丁研ぐのも上手くなったし、何でもスパッと切っちゃうからね。」

「ほんと?じゃ、いいよ。奢ってあげる。」

「マジ?やった!」

「何にする?」

「何にしよっかなぁ。」



仁科君は新入社員の頃、私と同じ店にいた。

季節柄、鮮魚部門に配属された新入社員は全員、まず「初鰹」を柵の形状に切る訓練をする。

でもプライベートで料理経験が無い子もいるし、出刃包丁を使いこなすのは簡単なことじゃないから、なかなかきれいな断面には切れない。

当然、毎日のように家でも店でも包丁を握るパートさん達には勝てる訳もなく、魚屋さんの新入社員が凹んでる姿を見るのは、もはや季節の風物詩とも言える。