「ねぇ、抱いて。」

「お前、でも.......。」

「ずっとずっと好きで、やっと思いが通じたのに、けじめをつけるから諦めるなんて急に言われても、気持ちの切り替えができないよ。」

「..........。」

「諦める前に、思いが通じたって納得できる証がほしい。ちゃんと区切りをつけないと、私だって諦められない。」

「だけど、余計に苦しくならない?」

「わからない。」

「..........。」

「でもそうなってもいい。今日のことは、絶対忘れられないに決まってる。だったら、古谷くんとの一番素敵な思い出にしたい。」

「......わかった。」



少しの沈黙の後、腕を緩め、古谷君が長いキスをする。

今までの思いが、一遍で伝わって来ちゃいそうな心のこもったキス。

温かくて、優しくて、それだけでまた涙が浮かんで来る。



「俺のこと、好きでいてくれてありがとう.....。」

「うん。」

「愛してるよ、歩未。」



耳元で囁いてくれた言葉が嬉しくて、嬉しくて、カラダ全体で泣いているみたいな気持ちになる。

だって最初で最後の「愛してる」に、私の名前が添えられていたから。



古谷君は私を直接名前で呼んでくれたことがない。

六年間ずっと「おい」とか「お前」とかばっかりで、それこそ苗字すらも言ってくれなかった。



名前を呼んでくれるなんて、やっぱり今日は特別なんだね。

今夜だけは、私も古谷君のこと、目いっぱい愛してもいいんだよね..........