鬼部長の優しい手




「あ…で、予定とかは
大丈夫か…?」


「あ、はい…!
特に予定とかはないので、
私でよければ、あのご一緒させてください」


「あ、あぁ
そうか。なら、丁度いい店があるんだ。
お前に合うかはわからないんだが…」



そう言って、塚本部長はまた
申し訳なさそうに眉をハの字にした。

…なんか今日の部長、
すごく表情豊か。
なにか、あったのかな?


怒ってばかりの部長は、個人的には
ちょっと苦手なタイプだけど、
こうやって私みたいな一部下にも気を使ってくれるなんて、


こんな一面もあったんだ。


まぁ、部長を怒らせてるのは
だいたい私だけど…。

「…七瀬?」


「あ、はい!」


心のなかで、くだらないことを考え込んでいる私に気づいた部長が自分のデスクを立ち心配そうに私の顔をのぞきこんできた。



ち、近い!近い!近い!
いちいち距離が近いよ!



グッと間合いを、つめられ
慌てて後ずさろうとする私
そんな私を見透かしてか、部長は
すかさず私の背中に手を回した。


「あ、ああの?部長…っ何を…」


「だって、お前逃げるだろう?」




2人っきりの、月明かりが薄く光る社内のなか、部長の低音ボイスが変に耳の奥に響く。