鬼部長の優しい手




「…なにか、あったのか?」


ずっと黙りこむ私を見かねてか、
部長は不安そうに私の顔を覗きこみ
そう聞いてきた。






「部長は…、


どうしてこんな時間に、こんなとこに?」



質問を質問で返すなんて、
すごく失礼なことだけど、
今、口をついで出てくるのは
そんな言葉だった。





「…これ。」

「…?」



部長は少し驚いたあとに、
スッと薄いオレンジのボールペンを
差し出した。





こ、これって…




「私の…ボールペン…」


いつも、仕事上の大事なことを
メモするために使っているボールペン。


でも、ボールペンなら
ちゃんと鞄に入れたはずなのに…!
なんで…っ!?




私は驚きつつも
慌てて肩に掛けてある鞄の中を
ごそごそと漁る。






「…無い…」


「…帰ろうと思ったとき、
お前のデスクの上に“それ”があるのを
見つけたんだ。」





部長は何故か少し恥ずかしそうに
ぽつぽつと話始めた。





「…ボールペンを忘れていることに気づいたお前が、もしかしたら会社に
戻ってくるんじゃないかと…思って…


少し、そんな期待をして
会社で待ってたんだ。」