聞き間違えるはずがない。
私の大好きな、低音ボイス。
「ぶ…ちょう?」
「なんだ、七瀬?」
慌ててその声のする方向を見る。
するとそこには、少しかがみながら
こちらをまっすぐ見つめる部長の姿。
「ど、どうして…
どうして部長が、ここに…」
え?なんで?
わけわかんない。私、パニックになりすぎて、幻覚見ちゃってる?
だって、部長が、
ここに居るはずないのに…
「とりあえず落ち着け。
なに泣いてるんだ…ほら。」
そう言って部長は私に、
深い緑のシンプルなハンカチを差し出した。
「あ、ありがとうございます…っ」
「いや、かまわない。
それより、立てるか?どこか痛いところはないか?」
「は、はい。大丈夫です」
私は部長から貰ったハンカチで
涙が浮かんだ目を拭い、
よろよろと弱々しく立ち上がる。
「…飲むか?そこの自販機で今
買ってきたんだが…
あ、七瀬ブラック飲めるか?」
そう言って差し出してきた部長の手には
ブラックの缶コーヒー。
「え、いや、そんな…
大丈夫ですから、部長飲んでください」
「いいから、やるって言ってんだ。
大人しく貰っとけ」
部長はそう言って、私の方に
缶コーヒーを投げた。
なんで、部長がここにいるの?とか、
なんで、こんなに優しくしてくれるの?とか、聞きたいことはいっぱいあったけど
私は、ぼーっと部長から貰ったあっかい
缶コーヒーをぎゅっと握りしめ
なぜか、黙ってしまった。


