思い立ったら、即実行。
帰路から真逆の会社へのルートに向かう
“どうか、部長がいますように!”
両手を胸の前で、ぎゅっと握りしめ
心のなかで、そっと祈りながら
歩く足を速める。
辺り一面真っ暗で、
ほとんどなにも見えない…。
会社って、こんなに遠かったっけ?
真っ暗な中を涙目になりながら、
ずんずん進む。
ちょっと怖くなってきた…
お願いだから、早く着いて!
また、強く祈って握りしめた手に
よりいっそう力を込める。
暗い中に、かつかつという私のヒール
の音だけが響く。
今の時間なら、まだ店も開いてていい
はずなのに、なんで周りの店は全部
シャッター閉まってるの!?
もう、いや…
半泣き状態の私は、その場に
しゃがみこんだ。
なんだか、会社には着かないし。
なんだか、風は冷たいし、
なんだか…
部長には会えないし。
27にもなって迷子になるなんて思わなかった。
ましてや、通い慣れてる会社に
たどり着けないなんて…
情けなくて、笑えてくる。
うそ。全然笑えない。
なにやってんのよ、私。
「…塚本、部長」
立ち上がる気力もなく、
弱々しい声で、居るはずのない部長の
名前を呼んでみる。
バカだなあ…、呼んだところで
部長が応えてくれるはずないのに。
「…呼んだか?」


