鬼部長の優しい手



本当、にぎやかなお母さんだなぁ。

お母さんたちが出ていった扉を見つめ、
しみじみとそんなことを考えた。

「涼穂、お父さん
先に、扉のまえにいってるから用意か終わったら来なさい。塚本くんのタキシード姿も見たいだろ?」

「あ、うん。ありがとう。」


微笑んだお父さんにつられ、
私も笑って返事をした。

お父さんの笑った顔、
めずらしくて
ちょっとびっくりしちゃった…

普段笑わないお父さんが笑ってくれた
それだけでもまた泣きそうになった。


涙目になる私をよそに、笑顔で部屋を
出ていったお父さん。


スーツ姿のお父さんを見送り、
“ああ、私、本当に今日
結婚するんだ”とふつふつと感じた。


「あ、そうだ。

…そういえば、まだこれが残ってた。」


ひとりになった控え室に、
私のそんな声が響く。

テーブルに置かれたガーターベルトを
とり、意を決して右足にそれをつけた。



「…つけるだけでも、なんか恥ずかしいのに…」


これを部長に見られるなんて…


私はだれもいない部屋で一人、
また顔を赤くした。